暮らしと仏具

私たちが暮らしの中で使う仏具について分かりやすく説明します。それぞれの仏具には、どのような役割や意味があるのか。仏具の基礎が学べます。

1仏具とは?

仏さまやご先祖を敬って供物をささげ、礼拝するための道具が仏具です。供物とは、花、ロウソクの灯り、線香の香り、それにご飯、水、果物などのお供えもののことです。

お供えものして礼拝することを、供養をするともいいますので、仏具とは、仏さまやご先祖を供養するための道具ともいえます。供養については[供養とは?]で詳しく説明します。

仏具には、お坊さんが使うお寺用のものと、私たちが使う家庭用ものがありますが、家庭用の仏具のほとんどは、お寺用の仏具に起源があります。お寺用の仏具を小さくして、仏壇に収まるように変えたものが家庭用の仏具ですので、仏具の役割や意味は、お寺用も家庭用も同じです。

この[暮らしと仏具]のページでは、家庭用の仏具の中でも特に重要と思われるものについて説明しています。まずは、仏具が供養のための道具だということと、家庭の仏具はお寺の仏具に起源があるということを覚えておいてください。

2供養とは?

少しだけ難しい話しになりますが、供養とは、もともと[仏法僧の三宝]に対してお供えして礼拝することです。仏法僧の三宝というのは、[仏]が仏さまで、[法]は仏さまの教え、[僧]は仏さまの教えを元に修行する教団のことです。この三つを大切にしなければならない宝という意味で三宝といいます。

供養は、お供えものの種類によって分けて理解することができます。線香の香りなどを供えることは香供養、花を供えることは華供養、ロウソクなどの灯りを供えることは燈供養、飲み物や食べ物を供えることは飲食(おんじき)供養です。仏具の種類もこれに従って、香供養具・華供養具・燈供養具・飲食供養具に分かれます。ただし、この四種類の他にも仏具はたくさんあります。

もともとは三宝に対して行うものだった供養ですが、だんだんと供養の意味と対象が広がりました。先祖供養はもちろん、亡くなった人の冥福を祈って行う追善供養もありますし、お盆に行うお盆供養もあります。また、折れ曲がったり錆びたりして使えなくなった針に感謝し裁縫上達の祈りをこめて行う針供養も有名ですね。

3仏壇について

通常、仏具は仏壇の前や中に置かれて使用されます。仏具と仏壇は切ってもきれない関係ですので、仏壇についても簡単に説明しておきましょう。

家庭の仏具はお寺の仏具に起源があると先に述べましたが、仏壇の起源もお寺にあります。お寺の本堂の中心には、仏さまが祀られ、色々な飾りがあって、たくさんの仏具が置かれ、お坊さんがお経をあげたり祈ったりする場所があります。その場所のことを[内陣]といいます。仏壇は、その内陣をコンパクトにして家庭に置けるようにしたものです。ですから、仏壇は家の中にある小さなお寺だと考えることができます。

新しく仏壇を購入する際には、あらかじめ置き場所をよく考えておくことをおすすめします。家族のみんなが、毎日気持ち良く仏壇と向き合える場所がよいでしょう。

思ったよりも大きくて、せっかく買った仏壇が思ったところに置けなかった、という話を聞くことがあります。きちんと測ってから仏壇を選びましょう。

4本尊と位牌

仏壇の奥の一番高い位置の中央に安置されるのが[本尊]です。本尊の両脇には[脇侍]を安置します。

本尊とは、礼拝の対象になる仏さまのことで、本尊仏ともいいます。釈迦牟尼仏や大日如来、阿弥陀如来などになりますが、どの仏さまを安置するかは、宗派によって異なりますので、菩提寺にお聞きなるのがよいでしょう。形態としては、仏像や仏画、名号、曼荼羅などがあります。

脇侍は、各宗派の開祖であったり、名号であったりさまざまで、やはり宗派によって異なります。こちらも、仏像や仏画、名号の場合がありあす。

[位牌]は、私たちが亡くなった家族やご先祖を礼拝するための仏具です(※浄土真宗は位牌を礼拝しません)。位牌は本尊よりも手前に本尊と重ならないように安置します。

お通夜や葬儀に用いる位牌は白木位牌と呼ばれます。これは四十九日が過ぎたら菩提寺に納め、本位牌に改めて、仏壇に安置します。

5香炉【香供養具】

線香や抹香を焚くための仏具が[香炉]です。家庭では一般的に線香が用いられています。

香を焚いて宗教的な儀礼を行うことは古代から多くの地域で行われていました。仏教発祥の地であるインドでも、多くの香木の原産地ということもあり盛んに利用されていました。

仏教では、香を焚けば心身を清め、感覚を研ぎ澄ますとされ、特に大切にされてきました。日本へは仏教の伝来とともに香が伝わったと考えられています。

線香を焚き、その香りを嗅ぐことで仏教の礼拝をしている実感が湧いてくる人も多いのではないでしょうか。それだけ仏教と線香の関係は深いのです。たとえば、弔問に伺って「お線香をあげさせて下さい」とお願いすることもありますし、お墓参りに行っても線香を焚きます。葬儀や通夜に参列した時に[香典]を包みますが、これは香の代わりに供えるお金という意味です。

線香の扱いで注意したいのは、火をつけた後、その炎を口で吹き消してはいけないということです。右手に持った線香にロウソクで火をつけたら、左手で扇いで消します。

6花立(花瓶)【華供養具】

花立(はなたて)は、花を供えるための仏具です。生花を供えるために使われることが多いですが、華鬘(けまん)や常花(じょうか)のように金属や木などを素材とし、花を模して作られた仏具もあり、これらも華供養具になります。

仏壇に花を飾るのは、花の芳香によって邪気をはらい、場を清めるという意味もありますが、私たちの眼を楽しませてくれるという効果も大切です。花は仏さまに供えるものですが、仏さまの方に向けずに、私たちの方から見て美しく見えるように供えます。これは、私たちが美しい花を見て喜ぶことで、仏さまが喜んでくれるからです。ですから、私たちが美しいと感じ、見て喜ぶことができる花を飾るようにしましょう。

「仏さまが私たちを救いに、この世界に来てくださる時には、天が仏さまを讃えて花を降らせる」という話も伝わるように、昔から仏教にとって花は重要なものでした。お釈迦さまの誕生を祝う[灌仏会]という行事は[花祭り]とも呼ばれ、たくさんの花で飾られます。

7灯立(燭台)【燈供養具】

ロウソクを立てて明かりを灯すための仏具が灯立(ひたて)です。燭台ともいいます。

ロウソクの火は、線香に火をつけるために灯すものと思っている人もいるかもしれませんが、それは違います。線香に火をつけるためにも使いますが、灯立は燈供養具ですので「火を灯して供養するための仏具」という理解のほうが正しいです。

この灯りのことを燈明といいますが、燈明は仏教にとってとても大事なものです。たとえば、燈明は闇を照らして明るくすることから、迷いの世界に暮らす私たちに明るい希望を与えてくれる仏さまの智恵にもたとえられます。また、仏さまの教えを受け継ぐことを、法燈を継ぐともいいます。

家庭用の吊燈籠が使われます。お盆に飾られる盆燈籠・盆提灯も燈供養具です。また、燈籠流しも燈供養の行事の一つです。

8仏器・茶湯器・高坏【飲食供養具】

ご飯をお供えするための仏具が仏器で仏飯器ともいいます。水や茶を供えるのが茶湯器、果物や菓子は高坏(たかつき)を使ってお供えをします。

水は汚れを洗い清める働きがあることから、私たちの心を清らかにしたいという願いを込めて、お供えされます。

食べ物をお供えする意味については、色々と解釈がありますが、仏さまに召し上がっていただくというよりも、感謝の気持ちをお供えしている、と考えた方がしっくりくると思います。食べ物をいただくことで、私たちは生きていくことができる、その感謝の気持ちを仏さまにささげているのです。

ですからお供えした食べ物を腐らせたりして無駄にしてはいけません。食べられるうちに下げて、おいしくいただくのが本来のあり方です。ただし、いたんだものを食べてお腹を壊してしまったら元も子もありません。衛生面に十分に気をつけたうえで大切にいただいてください。

9りん(鈴)【梵音具】

仏壇の前に置いてあり、チーンと鳴らす仏具です。一般的には「おりん」と呼ばれていますが、鐘(かね)と呼ばれることもあります。宗派によっては鏧(きん)や小鏧(しょうきん)と呼びます。これを叩くための棒はりん棒、あるいは撥(ばい)と呼ばれます。

音を鳴らす仏具は梵音具と呼ばれ、お寺の内陣で使われるものとしては木魚や鏧子(けいす)、木鉦(もくしょう)などがあります。これらは、お経をあげる時にリズムを取ったり、お経の開始や終了の合図のために叩かれるものです。家庭で使われるりんも、それらと同じ役割の仏具ですので、本来はお経をあげる時に使うものです。

ただし、仏さまを呼ぶため、あるいは、場を清めるため、精神集中のために鳴らすという考えもあります。宗派による違いもありますので、詳しくは菩提寺にお聞きになるのがよいでしょう。

除夜の鐘などでお馴染みの、お寺の境内にある大きな鐘は梵鐘と呼ばれ、やはり梵音具の一つです。

10三具足・五具足と仏具の飾り方

香炉と花立と灯立の三つの仏具を、三具足(みつぐそく)と呼び、必ず揃えたい基本の仏具になります。置き方は「左灯右華」と言われ、仏さまから見て左に灯立、右に花立、真ん中に香炉です。私たちの方から見れば逆になりますから、左から花立・香炉・灯立です。

三具足に花立と灯立が一つずつ加わったものが五具足(ごぐそく)で、置き方は花立・灯立・香炉・灯立・花立になります。

三具足に、仏器と茶湯器、高杯(たかつき)、りんを加えると、シンプルに仏具を飾ることができます。ただし、宗派によって仏具の飾り方を決めていますので正しくは菩提寺お聞きになることをおすすめします。

11ご先祖を大切にする気持ち

ここでは、これまでは仏教にも供養にも興味がなかったけれど、最近少し気になるようになってきた、という人たちを対象に述べます。

仏具は、仏さまやご先祖を供養するための道具だと、はじめに書きました。本当は仏さまを供養するのが第一なのですが、いきなり仏さま供養するように言われても、最初はどういうことかわからないかもしれません。

そこで、まずは今、自分が生きていることをご先祖に感謝することから始めてはいかがでしょうか。仏壇に、花立で花を供え、茶湯器でお水を供え、仏器でご飯供え、灯立にロウソクを灯し、香炉に線香を焚きます。この五つを五供(ごくう)といい、お供えの基本です。

そして合掌し、自分の親がいて、祖父母がいて、その先にご先祖がたくさんいて、そのつながりのおかげで自分いることを思い、そのつながりを意識しながら、ご先祖への感謝を心の中で唱えるのです。これならすぐにできるのではないでしょうか。

そこに何か聖なるものを感じるかもしれませんし、何も感じないかもしれませんが、どちらでもかもいません。大切なのは仏壇に向かうことです。ご先祖に感謝する気持ちとともに仏壇に向かっていれば、やがて今までよりも心が豊かになってくるはずです。

心の中にいつも感謝の気持ちを持っているのと、もっていないのでは、人間としてのあり方がまったく違ってきます。そして仏壇に向かい続けていれば、仏さまを供養することの大切さについてもだんだんわかるようになってくると思います。

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