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インテリアライフスタイル [反響と理解を得た初出展]

仏具のデザイン研究所は、平成26年6月4日(水)~6日(金)にかけて東京ビッグサイトで開催されたインテリア・デザイン市場のための国際見本市「インテリアライフスタイル」に出展しました。当研究所の初出展となりましたが、来場者の反響は大きく、さらにブースデザイン賞も受賞させていただきました。研究所メンバーの感想や思いを中心に、インテリアライフスタイル初出展についてお伝えします。

■仏具の魅力をもっと伝えていきたい

 仏具のデザイン研究所が初出展した、インテリア ライフスタイルは、特定のジャンルの商品を展示する専門見本市ではなく、さまざまな分野の インテリアデザインアイテムが並ぶ総合見本市です。デザインへの感度が 高い来場者、出展者が集まり、有力バイヤーとの商談も盛んに行われます。

 第24回目となる今回の開催では、過去最高の819社(27の国と地域) が出展し、来場者数も3日間を通して27,543人(33の国と地域)に及び、会場内は連日活気に満ちていました。

 仏具のデザイン研究所のブースは「ジャパンスタイル」という、質の高 いジャパンデザインの商品が集まるゾーンに設置されて来場者を迎えまし た。来場者の反応は3日間を通して大好評で、当研究所のブースの前を通 りかかると足を止め、商品を手に取り、熱心に質問をされる方が後を絶ちませんでした。

 さらに、全819のブースの中から、当研究所がブースデザイン賞を受賞しました。まったく考えていなかった受賞だけに、驚きの方が先でしたが、仏具をきちんと見せることを考え、純粋にそれを実行した結果の心から喜ばしい受賞でした。なお、授賞の理由は「仏具を使う日常の風景をイメージさせるような、まとまったデザインのブースになっていたから」とのことです。

 当研究所のブースが来場者を惹きつけ盛況を博した理由としては、まず、出展された仏具そのものが魅力的であったこと、そして来場者を惹きつけるような展示ができていたことなどが考えられますが、詳細についてはこれから分析し、今後の活動や商品開発に役立てることになります。

 また、想像してよりも、仏具に関心がある人が多いことがわかりました。それは、ブースに来られた方々が、デザインについての質問だけでなく、各仏具の役割や使い方などについてたくさんの質問をされていたことからも推測されます。「今まで仏壇仏具を買おうと思っても、なかなか欲しいものに出会えなかった。こういうものがあるならならぜひ購入したい」というような声もたくさん聞くことができました。

 仏壇仏具市場の縮小が懸念されていますが、実際には仏壇仏具を必要とされている方は多く、そういった方々が欲しいと思う商品を提供するこ とが私たちにとって大事なことであると改めて感じました。そして、現代の暮らしと嗜好に合った新しいデザインの仏具が存在するということを、もっともっとアピールして、仏具の魅力を伝えていくことの必要性を強く感じました。

 なお、今回の出展は、仏具のデザイン研究所として、初めての商品発表の場であり、発足から3年以上続いた研究活動や商品開発は、このインテリアライフスタイルへの出展によって最初の目標を実現したことになります。

 それと同時に、出展に合わせてWEBサイトも公開し、新たなスタートラインに立ったということでもあります。

 そこで、仏具のデザイン研究所の全メンバーに、初出展の感想や思い、そして今後の活動についての考えを話してもらいました。以下、プロデューサーの萩原から順番に、一人ひとりの話しを、質問と 回答の形式で掲載します。

■萩原修 プロデューサー

―萩原さんはプロデューサーとして、インテリアライフスタイルを、仏具のデザイン研究所の初めての発表の場に選んだわけですが、その理由はどこにあったのでしょうか?―

 仏具のデザイン研究所としては「既存の仏壇仏具店のお客さまが求める仏具を提案していく」という考えが基本にあります。しかし、それと平行して、仏壇仏具店に足を運ばない人たちに対しても、私たちのデザインする仏具を伝えていきたいという思いがあります。

 そこで、そういう人たちにどうやって伝えていこうか、と考えた結果、インテリアライフスタイルを発表の場に選んだのです。インテリアライフスタイルは、インテリアのデザインに対して意識の高
い人たちが大勢集まる場です。そういった人たちが、どのように反応するのか見極めてみたかったのです。この経験は、今後の仏具のデザイン研究所の活動にとって非常に意義深いものになると思います。

 この見本市に、食器やテーブルなど日常の暮らしで使うものを見に来た人たちが、たまたま私たちの仏具を目にしたらどういう反応を示すだろうか?日常的に使う道具の一つとして受け入れてくれるだろうか? 私たちは「暮らしの中で使う道具」という考えで仏具を作っていますので、そういうところに興味がありました。

 結果的に、予想もしていなかった業種や業態の方々からも引き合いがきましたし、考えていた以上に受け入れられたと思います。

―実際にインテリアライフスタイルへ出展して、どのような感想を持ちましたか?―

 プロジェクトの立ち上げから準備やさまざまな過程を経て、今回の出展まで3年間という長い期間がありましたので、とにかく早く発表をしたいという思いが強く、それが実現できて嬉しかった、というのがまず正直な感想ですね。

 展示については、「ジャパンスタイル」という質の高い日本の製品を集めたコーナーに出展できたことが、とても良かったと思います。そのおかげでデザイン性も質も高い日本的なものが揃ったブースに周りを囲まれ て、質が高い仏具という印象を来場者にもってもらうことができました。

 それに、アートディレクターの大友さんに担当してもらったブースのデザインが本当に良くできていました。仏具を見せるために最も相応しい空間を作ってもらえたと考えています。

 清潔感がある空間の中に、段差をつけた台を配置することによって仏具をきちんと見せることに成功しました。それが来場者を惹きつけたし、見やすかったと思います。さらに、狭い限られたスペースの中に、できるだけ広い通路を確保したので来場者への対応や会話もしやすくなりました。

 大友さんが頑張ってくれたおかげですね。ブースデザイン賞を受賞させていただきましたが、展示物をきちんと見せるという本来の目的を実現させた結果の受賞なので本当に嬉しいです。

―来場者の反応を見てどう思いましたか?―

 ブースの前を通る人を見ていると、始めは「何だろう?」という感じの反応が多いように思いまた。「仏具のデザイン研究所」と表示してあるので、仏具だとは分かると思いますが、仏具に詳しい人はあまり来場していないと思いますので、それぞれのモノが何なのかは、よく分からない方も多かったのではないでしょうか。

 それでも、近づいて手に取って見てくれる方が多かったのは、モノのデザインの魅力が伝わっていたからだと思います。仏壇や仏具を単に表面的にデザインするのではなく、「仏具とは何か」を追求し、「暮らしの中で使う道具」にこだわってデザインしているという意図が伝わったと考えています。

 「発表すれば、欲しいという人がたくさんいるはずだ」と、以前から考えていましたが、その予測が当たったという感触があります。これからは、これまで以上に堂々と積極的に、今の方向性で進むことができると考えています。

―今後どのようにプロジェクトを進めていきたいですか?―

 まず「仏壇をどうするか?」という大きな問題を解決したいですね。仏壇は仏具を使う場として必要なものですから、できれば仏壇もぜひ作りたいと考えています。

 それと、大事なこととして、仏具は仏教に基づいてお勤めをするための道具ですから、仏教との関わりも考えていかなければならないと思います。 たとえば、今、若いお坊さんたちの布教活動などに新しい動きがあるようですが、仏具を通して、そういう動きとも連動していけないだろうか、とも考えています。

 仏壇仏具を購入するのは親が亡くなる世代が中心ですので、仏具のデザイン研究所としても、まずその世代を購入層として想定しています。しかし、親などの近親者が亡くなることがなくても、日々の暮らしの中で仏壇に向かうのが本来の仏教のあり方だと思います。できれば世代は関係なく仏具のデザイン研究所の仏具をアピールしていきたいです。そういったことが今後の活動の一つの鍵になると考えています。

「仏教に基づいて日々の暮らしの中で仏壇に向かう。その時に必要な道 具が仏具なんだ」ということは、仏具のデザイン研究所として、しつこいくらいにこだわってやっていかなければならないと考えています。

■大友学 アートディレクター

―大友さんは今回の見本市でアートディレクターとして、ブースのデザ インやカタログのデザインなどをはじめ、全体の構想を形にする役割を務 めました。そして、インテリアライフスタイルに出展した 819社のブースの中で、仏具のデザイン研究所が「ブースデザイン賞」を受賞することができました。そこで、まず初めに、ブースデザインの担当者として、受賞の感想と、ブースのデザイン意図について聞かせてください。―

 まず賞をいただけたことを素直に嬉しいと思います。意図としては、カタログやWEBのデザインと同様に「研究所」という、清潔な中で、展示商品がしっかり引き立つステージを作っていくというコンセプト持ってデザインました。

 具体的には、狭いブースですので、窮屈さを感じさせないように心がけました。奥の棚と側面のグラフィックパネルがぴったり同じにしてあります。水平線が伸びていると広がりを感じるように、横のラインを揃えてその効果を上げました。

 色の使い方としては、側面の壁をライトグレーに、奥の壁を白にして、 側面の壁よりも濃いグレーを什器の土台に塗装で施しました。奥行き感を感じさせるような色の配色にしたわけです。

 ブースの中にできるだけ広い通路幅を取りました。すべては、狭いブースの中で、なるべく快適に仏具をしっかり見せるための工夫です。

 今回は、余裕のある予算を組んでいただけることでき、細部のクオリティにこだわった仕事をすることができました。シンプルなデザイ ンだけに、クオリティが低いと粗末に見えてしまう可能性がありますが、 他のブースよりも一段上のクオリティで仕上げることができたと思います。

 施工業者さんや、照明器具の業者さんにも多大な協力いただきました。そういったさまざまなご協力があってこそ今回の授賞があったと思います。恵まれた環境を与えたいただいたことにとても感謝しています。

―どのような思いで、インテリアライフスタイルに臨みましたか?―

 従来の仏具の流通経路を考えると、インテリアライフスタイルに出展することが妥当なのかどうか、という不安が当初はありました。しかし、出展する目的を「参加者のさまざまな反応を見ながら今後の課題をみつけること」だと考えました。

 インテリアライフスタイルは、一般消費者というよりも、消費者にさまざま商品を紹介している立場の人たちが多く集まる見本市です。日本のインテリア業界を牽引しているマーケットリーダーたちが集まる見本市とも言えます。どのような反応が返ってくるのか、とても楽しみになりました。

 出展にあたって、出展ブースのデザインも、カタログのデザインも、WEBのデザインも、仏具のありのままを見せるという目的を損なうことがないように心がけました。

―実際にインテリアライフスタイルに出展してどう思いましたか?―

 ブースをはじめ、色々と出展に関わるデザインを担当させていただいた立場として、来場者からどのような反応があるか非常に心配していましたが、いざ始まってみると驚くほどの盛況ぶりでした。

 考えていたよりもずっと多くの人が仏具のデザイン研究所のブースに訪れました。私の印象では、ブースの前を通りかかった人たちが何かの魅力に反応しているように感じられました。

 それが何なのかは、はっきりとは分かりません。展示してある商品であり、ブースであり、すべての総合力なのかもしれません。そういったものが高い水準に到達して、人々を惹きつけるレベルに上がった状態でお披露目ができたのかなと思いました。

―今回の経験を今後どのように生かしていきたいですか?―

 反応は総じて良い評価でしたので、それが何に基づいてどういう感覚でそういった評価をされているのか、まずそこを分析したいと思います。仏具のデザイン研究所全体から見れば、そこにこのブランド を動かしていくための示唆があるかもしれないですし、私のようなデザイナーにとっては、これからの仏具デザインに生かせるヒントがあると思います。

 今回、貴重な機会を持つことができ、多くの成果を得られたわけですから、これを無駄にすることなく、研究所全体としても、個人としても有効に活用していきたいと考えています。

■山口英文 デザイナー

―どのような思いで、インテリアライフスタイルに臨みましたか?―

 今回、私が出展した「kasanari」という仏具は、正統派の仏具ということを意識してデザインしたものです。仏壇仏具には過去からの積み重ねられてきた文化がありますので、それをリスペクトしたうえで、そこに今までにはない斬新さを加えたつもりです。

 正統派でありながら、kasanariのような存在感を持った仏具は今までになかったと思います。各具足の過去からの基本ルールは壊さずに、けれど、それが放っている存在感は新しさをまとっていると考えます。
 それを来場者にどれくらい新鮮に受けとってもらえるか、というところに一番興味がありました。

 奇抜なものを作れば、見る人が驚いてくれたりするので分かりやすいですが、正統派のものは、合によっては地味に見えたり、興味を惹かない可能性もあります。そこのリスクは考えましたが、それでもやはり奇抜さに走るのではなく、きちんと仏具におさまる正統派の仏具にこだわりました。それが私のインテリアライフスタイルに臨む意気込みだったということになります。

―実際にインテリアライフスタイルに出展してどう思いましたか?―

 「商品としてきちんと流通しそうだ」という反応が多かったと聞きまし たので、まずは、ほっとしました。もう一方で、「すごくモダンですね」とか「新しいですね」という意見もいただいたので、正統派に傾いたために見逃されてしまうのではないか、という懸念も払拭されました。

 何人かの来場者と直接、話をさせていただき、「伝統を守って従来の作 法をキープしつつ、新しさが出ているという」反応をいただいたことは、 すごく自信になりました。

 塗装や研磨にはかなり苦労してkasanariの質感を作り出しましたが、その説明をすると、「だから、こういう美しいラインが出ているんだ」とか、「それで、こういう美しい仏具になっているんだ」という感想をいただけましたので、それは本当にありがたいことだと思っています。

―今回の経験を今後どのように生かしていきたいですか?―

 正統派にはパワーがあるということを今回は改めて思い知りました。伝統には型があり、仏壇に入れるというのも一つの型です。その型のルールを守りながら、その中で新しさを出すということは、取り組みがいのあるテーマだと思います。

 仏具を作って、それを仏壇に入れると、とたんに表情が変わるというか、 新鮮さが増す瞬間があります。そういった経験から、仏壇の中におさめるという窮屈さの制約の中で新しいものをデザインすることが、すごく面白いと分かりました。

 これからも、伝統や型に敬意を払うという姿勢は変えずに、しかし素材や手法は変幻自在に変えながら色々なトライをしていきたいと思っています。今は、あれもやりたい、これもやりたいという考えが次からつぎに出てきている状態です。

 仏具をデザインするうえで一番大事なことは、仏壇仏具と人との関係、仏壇仏具に向かう人の気持ちを考えることだと思います。
 私は普段、工業デザインをやっていて、情報機器のインターフェイスにも関わっています。仏具とはまったく違う世界だと思われるかもしれませんが、実は非常に近いものです。

 スマートフォンのようなハイテク製品も、インターフェイスを考えずに、効率的だからという理由で、どんどんハイスペックにしても誰もついてきません。
 製品と人間の接し方というものは誰かが勝手に変えられるものではないのです。

 仏壇仏具と人間が向かい合うことも、ある種のインターフェイスです。デザイナーが勝手に奇抜な形を作っても、一瞬は目を惹くかもしれませんが、すぐに消えてなくなると思います。つまり、普段やっているハイテクの仕事と、仏具の仕事は人間と向かい合う関係性という意味では、ほとんど同じということになり、それはとてもおもしろいことだと思っています。これからも、仏壇仏具に向かう人の気持ちを考えながら仏具をデザインしていきたいと考えています。

■山田佳一朗 デザイナー

―どのような思いで、インテリアライフスタイルに臨みましたか?―

 期待よりも不安の方が大きかったですね。インテリアライフスタイルは、あまり仏壇仏具屋さんが来る見本市ではないので「ここに出すことの意味はどうなんだろうか?」という疑問と不安が当初はありました。既存の仏壇仏具の流通ルートで売る仏具をデザインするという前提でやってきましたので、想定していたことと違う未知の世界に飛び込んで行くような不安がありましたね。

―今回、出展した仏具はどんな意図でデザインしましたか?―

 私は、現状の仏具や仏壇のあり方に違和感を感じていて、仏壇仏具店に行っても「買いたいと思えるものが少ない」という印象をもっていました。そこで、何がそう思わせるのか考えてみると、色々と見えてくることがありましたので、それを一つひとつ解決することを考えました。

 そして、ただ解決するだけではなく、皆が買いたくなるようなもの、ずっと使いたいと思ってもらえるようなもの、共感を伝えていけるようなものにしたいと考えてデザインしました。

―実際にインテリアライフスタイルに出展してどう思いましたか?―

 インテリアショップやデパートなどのバイヤーさんが興味を示してくださいましたので、既存のルートではないところに参入できるのではないかという期待感が強くなっています。開催前は、そこが一番の不安でしたが、 思いの他に好評でしたので安心しました。一般の方にも共感してもらえる仏具をデザインできたと考えています。

 もちろん、実際にどこまで購入していただけるかは、これから検証が必要ですけど、既存の流通ルートだけではなくて、色々なところにアピールして共感を得ていくことが、これから大事になっていくのではないかと思っています。

今回、お客さんから誉め言葉も含め色々と意見いただきましたが、一番印象に残っているのは、あるご活躍されているバイヤーさんから言われたことですね。それはだいたい次のような内容のものです。

「仏壇仏具は、多くの場合、近親者が亡くなるなどの動機が生じないと購入しません。そうなった場合に始めて、何の知識もないまま仏壇仏具店に行き、店員さんのすすめで買うことになります。その購入動機に仏具のデザイン研究所の仏具が入り込むためには、普段から身近に感じてもらっていることが必要ではないでしょうか。言い換えれば、普段から仏具のデザイン研究所への入り口を作っておくことです。

 たとえば葬儀に参列した時に使う数珠とか袱紗のようなものや、お墓参りや日常で使う線香やローソクなども扱って、普段から利用してもらうことです。そういったものも仏具なのですから、仏具のデザイン研究所として扱うべきでしょう。

 そうすれば、身近に感じて記憶にも残るので、いざ仏具の購入を考えた時に仏具のデザイン研究所という選択肢が出てきます。そういう身近なことをやっておかないと、購入してもらうのは、なかなか難しいのではないでしょうか」

 と、いうようなことを言われました。確かにそういうことも必要なのだろうと思います。

―今回の経験を今後どのように生かしていきたいですか?―

 私は今回、たくさんの仏具をデザインして出展させていただいているので、次のシリーズということはあまり考えていません。それよりも仏壇を作りたいと思っています。

 今回のカタログ撮影では、お借りした仏壇を使わせていただいて、仏具の撮影をしましたが、やはり仏壇も自分たちでデザインするべきだと思います。私個人が、ということよりも、仏具のデザイン研究所としてやるべきだと考えています。仏具という家具を揃えたので、次は仏壇という家を作るべきではないかと考えます。

 それから、先ほど述べた数珠や袱紗の話にもつながっていきますが、仏具のデザイン研究所として、色々なことを伝えていくことが凄く大事だと考えています。

 広報や活動報告ももちろん必要ですが、それだけではなくて、仏具についての提案のようなものも発信していくべきではないでしょうか。そうしないと仏具のデザイン研究所のことを世の中の人々に気がついてもらえません。もっと多くのことを発信して伝えていくことが大事だと思っています。

■鈴野浩一 デザイナー(トラフ建築設計事務所)

―どのような思いで、インテリアライフスタイルに臨みましたか?―

 今回は、仏具のデザイン研究所の中で、私たちだけが仏壇を出展しています。始めは、小さいコンパクトな仏壇を作って出展しようと考えていましたが、どうしても中が暗くなってしまったり、狭く窮屈に感じてしまったりするので発想を変えることにしました。

私たちは普段、建築関係の仕事をしていますが、住宅を考える時に家具から発想していくこともあります。その経験を生かして、仏具から発想して、仏壇を考えることにしたのです。

 そして、仏具をコンパクトにするために段差をつけることを考え、さらに仏具で仏壇を作るという発想に切り替えました。そこでできあがったのが、今回出展した「ちいさな仏壇」です。仏具が並んでいるように見えるかもしれませんが、これは仏壇です。仏具で構成された仏壇というわけです。

 「ちいさな仏壇」は、自由に仏具を配置して自分だけの仏壇が作ることができます。たとえば右利きの人と左利きの人では、使いやすい仏具の配 置が違ってくるでしょうから、自分の使い勝手にあわせて配置することが できます。このように既存の形にとらわれず、新しい発想で「ちいさな仏壇」を作りましたが「普段はなじみのない仏壇が現代社会に浸透するかもしれない」という期待をもってインテリアライフスタイルに臨みました。

―小さいコンパクトな仏壇を作ろうとした理由と、仏具で仏壇を作ると いう発想に行き着いた理由は何でしょうか?―

 昔からの住居でない限り、今は仏壇を置くことを考えずに建てられている家がほとんどです。実際に私が今住んでいるところもそうです。そういう環境で、たとえば親が亡くなった場合に仏壇を置く場所を考えると、切実な問題になるだろうと思い、自分の家だったらどうするかと考えてみました。

 そして、お寺にも話を聞きに行ったりしながら、色々と試行錯誤して気がついたことは、仏壇の形状自体にはそれほど細かいルールはないということでした。

 手を合わせるとか、祈るとか、そういう行為の方が大事で、仏壇の形ありきではないと気がついたのです。たとえば、故人の写真を立てて、お線香を上げて祈る。そういう思いや気持ちが一番大事なんだと思います。

 仏壇屋さんに行ってみると、定形の仏壇仏具がずらっと並んでいますので、こういう形でないとだめなんだ、という思い込みをしてしまいがちです。しかし、実は決まっていることは意外に少なく、形にとらわれるよりも、使いやすく作ることの方が重要だと考えました。

 たとえば、線香を上げるにしても、ご飯を供えるにしても、そうしやすいこと、毎日続けられるような作りになっていることが大事なんだと考えました。日常的に使うための、使いやすい道具という点から発想して「ちいさな仏壇」に行き着いたのです。

―実際にインテリアライフスタイルに出展してどう思いましたか?―

 ここまで3年越しのプロジェクトでしたので、ようやく発表できて感無量というところですね。3年間かかったプロジェクトというのは、私が普段手がけている建築関係の仕事でも今までなかったほど長いものでしたので。

 その分、何度もトライして、サンプルのチェックも何度もしつこくやってきました。そして、発表の舞台と日程が決まってからは、皆が集中して、写真撮影などの準備に取り組んで出展の日を迎えることができました。その甲斐があって、お客さんの反応もとても良かったと聞いていますので、本当に良かったと思います。

―今回の経験を今後どのように生かしていきたいですか?―

 以前は、仏壇というと何となく「変えることができないもの」という思い込みがありましたが、そうではないことが分かりました。そうなると、新しいものを作っていきやすい分野ということになり、色々とデザインす ることができます。これから、購入する消費者の方々の意識もだんだんと変わっていくかもしれません。家の仏壇ではなく、自分個人のための仏壇を選ぶこともできるようになると思います。そんなことを考えながら、また新しい取り組みを考えていきたいと思います。

■山家明 デザイナー(元トラフ建築設計事務所)

―どのような思いで、インテリアライフスタイルに臨みましたか?―

このプロジェクトには、仏壇を作るということで関わり始めました。私自身も、実家から離れて普段は仏壇のない環境にいますので、祈る場というものを家のどこかに欲しいという思いもあり、興味のある仕事でした。ただ、仏壇の場合は、どうしてもある程度以上の大きさになってしまいます。そうなってしまうと、仏壇を置くスペースが確保できない家の場合はどうするのか、という問題が生じます。
 また当初は、仏壇や仏具を作るには守らなければならない約束事がたくさんあって、もの凄く縛りがきついイメージがありましたが、だんだんそうではないことに気がつきはじめました。

 仏壇を前にして祈るという習慣をもつ人が減ってきてしまっている今、何よりも大切なのは、祈る場を作ることではないかと思い始めたのです。 形にとらわれずに、亡くなった人を思う場を作れればよいのではないかと考えました。

 そこで、仏壇の中にある段差に着目して「仏具自体に高さの変化を与えれば箱がなくても仏壇を表現できるんじゃないか」という考えに至りました。今回出展した「ちいさな仏壇」はこうして生まれたものです。「この発想は、きっと一般の人たちに理解してもらえる」という確信をもって今回のインテリアライフスタイルに臨みました。

―実際にインテリアライフスタイルに出展してどう思いましたか?―

 私たちは、従来の仏壇仏具から視点を変えて、もっと身近なものとして 使っていただくために、「ちいさな仏壇」を発表したわけです。来場者の反応は、まず「何、これ!」というものです。そこから関心を惹き、よく見てもらい、説明をして、理解していただきました。

 これは、私たちが期待した通りの反応でした。思っていた通り、私たちの意図がよく理解してもらえたと思います。
 その結果、インテリアショップなどから、扱いたいという申し入れも結構きているようですし、私たちの狙いは成功したと考えています。

―今回の経験を今後どのように生かしていきたいですか?―

 私たちが提案した「ちいさな仏壇」が多くの人の目に触れることで、仏壇仏具に対する考え方が少しでも変わればいいと思います。
 仏壇を購入しようと思っても、家に置くスペースがないので一番小さいものを買うしかない。仏壇が小さいから、具足もなるべく小さく少なくするしかない。そういう妥協で仏壇仏具を買うのではなく、もっと気持ち良く自分が欲しいと思うものをお客さんが選べるようになってもらいたいですね。

 そのために、もっと仏壇仏具をデザインするデザイナーさんが増えることを期待していますし、今回のことがその発端になればいいなと思っています。

 仏壇仏具は遠い存在のようで、実は一番身近なものです。仏壇に向かうと、お父さんやお母さん、お爺さんやお婆さん、身近な人がそこにいるのですから。そして仏壇仏具は、そういう人たちに自分の思いを伝えるためのものです。

 今回、そういう身近なものをデザインできたということ、それに、人の思いについて考えることができたという意味で、凄くいい経験になったと思います。今後の自分の活動にも必ずこの経験が生きてくるはずです。

■榊原彰 WEB デザイナー

―仏具のデザイン研究所の WEB サイト制作には、どんな思いで取り組んできましたか?―

 皆さんがデザインされた仏具の良さを損なわないようなサイトを作らなければならない、という思いが一番強かったですね。サイトのデザインで皆さんの足を引っ張らないようにしたい、という気持ちです。
それと、仏具のデザイン研究所の仏具は、きちんと研究して作っているということが伝わるようなものにしたいという思いがありました。

 サイトデザインとしては、若い人から年配の人までの幅広い層に受け入れてもらえるものを心がけました。仏具のデザイン研究所では、従来の仏具購入世代ではない若い世代から高齢の方までの広い層を対象としていますので。

 インテリアライフスタイルの開催に合わせて、サイトの公開を間に合わせなければならないということもあり、期日間際には、かなりバタバタしましたが、間に合って良かったと思います。
 途中では色々と困難な問題も生じましたが、結果的に、ほぼ想定通りに仕上げることができましたので、そういった面でもほっとしました。

―インテリアライフスタイルの会場に行ってみてどう思いましたか?―

 インテリアライフスタイルの会場には、私は初めて行ったので、予想し ていたよりも規模が大きいこと、活気があって、たくさんの人が来場して いることに驚きました。

そんな中でも、仏具のデザイン研究所のブースは美しくすっきりできていると思いました。ブースデザインとパンフレットのデザインと、もちろんWEBサイトのデザインにも統一感があって、アートディレクターの大友さんの世界観がよく表現されていて良かったと思います。

 私は普段、ほとんど画面の中で作業しているので、仕事が現場に繋がっているということ、そしてその先では、人が実際にモノを手に取ったりしていることを目の当たりにすることができて本当によかったです。仕事の繋がりを強く感じることができました。

―今回の経験を今後どのように生かしていきたいですか?―

 仏具のデザイン研究所の仕事は、私が今までやってきた他の仕事よりもプロジェクトの中に深く関わって進めることができました。そのため、大変なこともありましたが、やり甲斐もありましたし勉強にもなりました。プロジェクトの活気も肌で感じることができましたし。今後も可能であれば、こういった形で仕事をしてみたいですね。

仏具のデザイン研究所のサイトも、できてからがスタートというか、できあがったものをどう成長させていくかが大事だと思います。これからも継続的に関わることができるならば、コンテンツの充実に努めていきたいと思います。

■阿部良寛 カメラマン

―仏具のデザイン研究所のプロジェクトに、カメラマンとして関わり合いながら、どんなことを感じたり考えたりしていましたか?―

 今までにない仏具を見ることができるのでワクワクしていました。仏壇仏具店にある仏具を見ても、自分が欲しいと思うようなものはなかなか見つかりませんでしたが、仏具のデザイン研究所の皆さんがデザインしたものを見て、自分も購入してみたいと思える仏具に初めて出会うことができました。

―インテリアライフスタイル展の会場に行ってみてどう思いましたか?―

 想像していた以上に仏具に関心がある人が多いと、撮影をしながら思いました。会場を回られている方が、仏具のデザイン研究所のブースの前で急に足を止めて、それからブースの中に入って行くところをよく見ました。「仏具にも色々あるんだね」というような話をされている方が多かったように思います。

 仏具をトータルで扱っていながら、仏具っぽさがないというのでしょうか、従来の仏具っぽさを感じさせないけれども、まさしく仏具だというのは凄いですよね。会場に来た私の友人も「とてもキレイだから単品で花瓶として欲しい」と言っていたものもありました。そういう意味では、仏具であって仏具でないようなところがあり、新しい可能性があるのはないかと思います。

 もちろん仏具ということが第一義だと思いますが、仏具であると同時に、色々な魅力があるプロダクトという感じがします。それがうまく融合しているような感じでしょうか。

―今後の仏具のデザイン研究所の活動にどんなことを期待しますか?―

 今まで関心のなかった人が仏具に興味を持つきっかけを、仏具のデザイン研究所の活動が作れるようになればいいと思います。そうなれば、仏具のデザイン研究所のラインナップも増えていくことになると思いますし。

 私も含めて、若い人が仏壇仏具を購入する機会はあまりないと思います。正直なところ高価ということもあって、なかなか手が出ませんし。けれども、これをきっかけに変わっていくことを期待しています。

 昔ながらの伝統的な仏壇仏具を購入するのもいいと思いますが、ライフスタイルが昔とは違うので、仏具のデザイン研究所のような新しい仏具や仏壇などが増えていくと、楽しくなるような気がしますね。

■尾崎恵梨子 コーディネーター

―どのような思いで、インテリアライフスタイルに臨みましたか?―

 私は会社で、仏具の商品開発や企画を担当していますので、とにかく質の高い商品を揃えていきたいという思いと、早く発表して販売したいと思いが強く、その点に関してはけっこう緊張感を持ってやってきました。
 もちろん、展示のクオリティも上げなければなりませんが、そこは大友さんがいらっしゃったので、それほど心配はしていませんでした。

―実際にインテリアライフスタイルに出展してどう思いましたか?―

 普段、私は、お仏壇店の方とはお会いしますが、一般のユーザーさんから直接お話しを聞くことが少ないので、今回は色々とお話を聞くことができて、とてもためになりました。

 また、インテリアショップの方やデパートの方など、さまざまな人に、新鮮な目でこの商品を見ていただき、そして仏具に対して思っていること を聞かせていただき、もの凄く勉強になりました。色々な方から聞かせていただいたことを、今後の商品開発に生かしてい きたいと思います。

 それと、自分が思っていたよりも、仏具について知らない人が多い、ということがよく分かりましたので、どうやって知っていただくかも今後の課題の一つになりました。

―今回の経験を今後どのように生かしていきたいですか?―

 昔からずっと続いている伝統的な仏具には、大切に守られているものがあると思いますので、新しいデザイン仏具も、そういったものを引き継いでいけたらいいですね。仏具のデザイン研究所としては、伝統的なことも学びながら、新しい商品を開発することが必要だろうと考えています。

 それから、インテリアライフスタイルは、さまざまな分野のデザイナーさんも集まりますので、そういった方々のお話もたくさん聞くことができました。そこで分かったのは、伝統工芸品や家具を作っていらっしゃる方の中に、仏具を作ってみたいと考えている方がけっこういらっしゃるということです。

 そういう方々とも今後関わりを持って色々な活動をしていけたらいいなと思います。色々な分野のデザイナーさんが考えた仏具を見てみたいと思います。

■本保実 仏具のデザイン研究所代表

—インテリアライフスタイルを、仏具のデザイン研究所の初めての発表の場として決定した理由はどこにあるのでしょうか?—

 まず、このままでは仏具の市場全体が先細りになってしまうのではないか、という危機感が前提としてあります。そこで、新たな仏具の需要を開拓するために、仏具が本来もっている必要性や意味を一から考え直し、現代に合った新しい仏具を作るというプロジェクトとして「仏具のデザイン研究所」を立ち上げ、いくつかの仏具を完成させることができました。

 ただ、その中には従来の仏壇仏具店さんでは受け入れられないものもあるかもしれません。そこで、普段、私たちが接している仏壇仏具業界以外の人たちは、これらの仏具をどう評価するだろうか、一般の人たちに欲しいと思っていただけるだろうか、それを確認したいと思ったのです。

 そこで、デザインやライフスタイルの変化に、敏感に反応する方々が集まるインテリアライフスタイルに出展することを決めました。

—実際にインテリアライフスタイルに出展して、来場者の反応はどうでしたか?—

 考えていたよりも、かなり大きな反響があったと思います。それも、実にさまざまな分野の方々から、たくさんの意見や感想をいただくことができました。インテリアショップやデパートのバイヤーの方々はもちろん、ネット販売の方や、さまざまな分野の出展者の方、一般の来場者など、本当に多くの方が私たちのブースに来られて、仕事を離れて「こういうのが欲しかったんですよ、これからは、きっとこういう風になるんですよね」 というような感想を言われていました。

 個々の仏具についてもたいへん好評でした。来場者の方が仏具のデザイン研究所のブースの前で足を止めて中に入ってきてくれるのは、展示してある「仏具」が来場者を惹きつけたからだと思います。

 仏具というのは、仏壇の単なる付属品のようにも思われがちですが、私たちの仏具はそうではなく、それだけで力を持った一つの商品であり作品なんだと、確認できたことが凄く嬉しかったです。自信を持つことができました。

 また、私たちのブースが、それを可能にするような展示のしかたになっていたことも、反響の大きさに繋がったと思います。おかげでブースデザイン賞もいただくことができました。

 一つひとつの商品がよく映える展示になっていたと思います。仏壇の付属品ではない主役たりえる商品として、それぞれが持つ商品の魅力がストレートに表れる展示になっていました。

—今回の結果を受けて、これからどのように進んでいきますか?—

 この出展で、従来の仏具以外にも新しいニーズが強くあるということが分かりました。ただしそれは、従来とは別の流通ルートを考えないと販売が難しい面があるかもしれません。これから試行錯誤が必要だと思います。

 最も重要なことは、今まで私たちが考え作ってきたものが、実際にお客様に受け入れられるということが分かったことです。それがたいへん自信になりました。

 初めにも言いましたが、このままでは仏具の市場全体が先細りになってしまうのではないか、という危機感が私にはあります。多くの人が仏壇仏具を必要としなくなり、購入しなくなってしまうという危惧です。
 しかし、今回、実際には仏具に興味を持っていらっしゃる方はたくさん いるということが分かりました。

 「本当は自宅に仏具を置きたいけれど、なかなか自分の気に入ったもの が見つからないので、今までは購入できなかった。でも、こういう仏具があるなら、ぜひ欲しい」という方がたくさんいらっしゃいました。仏具を 必要としている方はたいへん多いのです。

 つまり、現代の生活にマッチしたもの、今の人たちが欲しいと思えるものが提供できれば、将来はそれほど悲観するものではないということです。これからできることが、私たちにたくさんあると分かりました。自分たちが目指す方向性は間違っていないんだ、という自信を付けることができたのが、今回の最大の成果でした。

 使う方々のことを考え、使いやすさ考え、あるいは求められているニーズを探って、これからもどんどん新しい商品を作って発表していきたいと考えています。

—以上—

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